コンサルティング
地域で活躍する事業者を支援するために、各地に存在する商工会議所。支援施策の中には、既存会員企業のビジネス成長サポートや将来的な事業者の確保に向けた創業支援などが含まれます。具体的な支援は各企業との個別相談もありますが、不定期にセミナーを開き、専門的な知見を周知することを行うのも一般的です。そうした中、流山商工会議所が今回スタートさせた「新しい事業者支援」は、参加者わずか6社。1人の講師が大勢の参加者に向けて話すセミナーとは真逆の規模感でした。では、なぜ流山商工会議所は、わずか6社に向けての事業者支援をスタートさせたのでしょうか。「新しい事業者支援」の取り組みと狙いをリポートします。
「正解がわからないんですよね」 雑談から考えるビジネス課題解決の糸口
2023年8月、千葉県流山市の「KIJI CAFE」に市内の事業者6社が集まりました。参加したのは、KIJI CAFE(飲食業)、京和ガス(ガス事業)、アズオフィス(シェアオフィス運営等)、オフグリッドエナジー事務所(ドローン点検事業)、ハム・ソーセージ職人の店Umami(食品製造販売)、焼き菓子屋fossette+(菓子製造販売)とバラエティに富んだ面々です。「インスタの投稿ってどんな形でやればいいのか、正解がわからないんですよね」
「うちの場合は、投稿時間とか内容のフォーマットをある程度決めておいて投稿するようにしてますよ」
「へえ、時間も決めた方がいいんですね」
「割と夜の時間帯にスマホ見る人が多いんで、うちはそうしてますね」
「なるほど」
こうした参加事業者同士の話に、今度は「情報発信の専門家」として同席していた千葉日報デジタルの担当者が、専門家目線でのアドバイスを続けます。
「インスタは効果的に使えば集客やお店の認知向上に力を発揮します。ですが、漫然と、なんとなく始めてしまうと、意外と労力や手間だけかかって運用が大変になることもあるんですよね。なので、最初に『どんな目的でインスタを使うか』『どういうターゲットにこのインスタを見てもらいたいか』などを考えてから始めると効果を感じやすいですし、次の改善にもつなげやすくなりますよ」
事業者がリアルに実践していることをさらに補足するようなアドバイスに、参加事業者はすぐさまペンを走らせ、メモを取ります。
こうした各事業者の課題についてざっくばらんに「雑談」しながら解決の糸口を見つけていくのが、今回、流山商工会議所が企画した「新しい事業者支援」のポイントです。
あえて小規模開催、あえて雑談 その狙いは?
流山商工会議所が「新しい事業者支援」として企画したのは「情報発信を考える学び交流サロン」。ポイントは、前述の通り小規模での開催です。各事業者が日々感じていながらも、なかなか言葉に出して考え切れていない中長期的な自社の課題について、あえて「雑談」をしながらその課題を見えるようにし、解決の糸口を見つけてもらう狙いです。今回は、会員事業者の課題として多い販路拡大や自社のブランド確立などに役立つ「情報発信」をテーマに開催しました。開催にあたっては「情報発信の専門家」である千葉日報デジタルと共同で運営内容を決めていきました。
企画運営を担当した流山商工会議所の細井洋一さんは、狙いをこう語ります。
「会員事業者がご相談されることは、意外と目先の問題が多いんです。『このメニューを作りたいからどうしよう』とか『今こういう問題が起きているからどうしよう』というような。でも、今回学び交流サロンを通してお話しできたのは、もう少し長期的な話題。こういう話題で話し合うのは、通常の個別相談のような一対一ではなかなかできないと思うんです。そういう意味では、課題をお互いに投げかけてみんなで考えるというのは長期的には得るものがあるんじゃないかと感じました」
「メディア視点から面白く見える魅力」を深掘りする
こうした狙いを参加事業者に実感してもらうため、学び交流サロンは6社限定で設定。7月から毎週月曜日の午後に3週連続で開催し、同じ事業者が3週連続で参加して学んでもらう形をとりました。プログラムにも工夫を凝らし、各回の議題はこのような形で設定しました。
①オリエンテーション+自己紹介
②自社の魅力を深掘りしてみよう
③深掘りした魅力を発信してみよう
ポイントは「単純に情報発信ツールを使いこなすことを学ぶだけの講座ではない」という運営方針です。
・自社のビジネス成長の「目的」(=売上アップ、認知拡大など)に合わせて
・どんな「手段」(=SNS運用などの情報発信)を使うべきか
という「本質」の部分まで踏み込んで理解いただけるようにしました。
そこで重要になるのが、「②自社の魅力を深掘りしてみよう」のパートです。ここでは千葉日報デジタルとの雑談を通して、参加事業者の商品やサービスについて「メディア視点から面白く見える魅力」を深掘りしていく作業を行いました。
例えば、ハム・ソーセージ製造Umamiさんの場合は「日本人の口に合うおだやかな塩味」という商品特徴から「減塩」というキーワードにつなげ、「塩分を気にする人でも食べやすい」という視点で「メディアに取り上げられやすく面白く見せる」ことを、参加者同士で考えました。
また、オフグリッドエナジー事務所さんはドローン点検事業という競合が多い事業領域に新規参入しようとしていたことから、自社にしかできない空撮を活用したサービスを検討し、事業の立ち上げ~メディア戦略に至る流れを議論しました。
このように「メディア視点から面白く見える魅力」を各事業者で探った上で、その魅力をどう発信していくかを具体的に考える「③深掘りした魅力を発信してみよう」のパートにつなげました。
「自分のお店を見直すきっかけに」 雑談が生み出した客観視点
こうした構成が功を奏し、全3回終了後には参加事業者から好感触の反応がありました。<KIJI CAFE>
自分の事業を立ち止まって見直すいい機会になった。皆さんの事業を冷静に見て、自分の事業の「鏡に映った姿」のように見えてそれも参考になった。
<京和ガス>
まず自社の「目的」をどこに設定するかを考える必要があることが分かって良かった。皆さんの意見をたくさんもらえたのも勉強になった。
<アズオフィス>
自社サービスを練り切れていないという印象が強くなったので、軸を決めて深掘りしないといけないと感じた。同業者の皆さんの気持ちも分かって良かった。
<オフグリッドエナジー事務所>
自社サービスで強化しないといけない部分を明確にして、独自のコンテンツをどう作っていくかを考えないといけないことがよく分かった。
<ハム・ソーセージ職人の店Umami>
自分が思う事業の強みと皆さんから見た強みが少し違ったりするのも理解できて良かった。これからに生かしていきたい。
<焼き菓子屋fossette+>
皆さんの経営上の悩みを聞けたのも参考になったし、もう1回自分のお店を見直すきっかけにもなった。定期的に催されるといい。
流山商工会議所では、こうした反応を受け、さっそく8~9月に第2弾の「情報発信を考える学び交流サロン」の開催を決めています。担当の細井さんは「ファシリテーター(進行役)がいることが重要。事業者さん同士だけではなかなか話し合いにならないテーマでも、ファシリテーターがいることでこういう実のある議論ができると感じています」と語り、引き続き千葉日報デジタルと連携してサロン開催を行っていきます。
少人数での「雑談」を通してビジネス成長に必要な課題解決の糸口をつかんでもらう「情報発信を考える学び交流サロン」。流山商工会議所が始めた「新しい事業者支援」は、こうして一歩目を踏み出しました。今後、創業スクール卒業生のアフターフォローや、会議所会員企業のビジネス成長に向けた取り組みとして、活用が広がっていくか期待が持たれます。