創業者支援の新事業「市原未来創業プロジェクト」は、2022年10月の集大成となるビジネスオーディションをもって成功裏に終了しました。この活気ある創業者支援イベントを市原商工会議所と共に、裏側からリードしたのが千葉日報デジタルです。
今回は、ビジネスオーディションに至る3段階の支援ステップの内容から、事業実施の狙い、イベントを成功に導く仕掛けなどを千葉日報デジタルの事業キュレーター・中島悠平がインタビュー形式で解説します。
事業の「芯」を魅力的に見せる、伴走型のサポート
––––本番までには、(1)デジタルマーケティングワークショップ、(2)個別相談による事業磨き上げ、(3)プレゼン対応レッスンの3段階のステップがありましたが、その具体的な内容を教えていただけますか?
ワークショップは2回行う予定で、全ての参加者に出席していただきました。初回は自己紹介を兼ねて、各々の事業を10分程度で語っていただき、互いの理解を深めました。
ほぼ雑談のような感じで終わりましたが、裏側の意図には、この場からある種の創業者コミュニティのようなものが生まれて育ち、街全体の活性化につながればという思いがありました。それもあって、可能な限りコミュニケーションを取る場を作りました。
そこから2週間ほど後に実施した2回目では、このステップの趣旨であるデジタルマーケティングを深掘りして、お客さんの集め方や事業の周知方法についてディスカッションをしました。
例えば、「○○○○で税務調査とさようなら」をテーマにプレゼンした税理士の西村さんは、ホームページを持っていましたが、税理士会のひな型を借りて作っており、もう少し自分のオリジナリティを出したいというご希望がありました。
「おもてなしアートで集客・接客向上」の坂本さんはインスタグラムを使っていましたが、「自分の顔を出すのは恥ずかしい」と話していました。一般的なアーティスト兼代表という方は、自らがインフルエンサーになって、顔も作品もアピールすることがよくあります、というアドバイスもしました。
一方、「市原の太巻き寿司を世界へ」をテーマにプレゼンした上田さんは、10年以上太巻き寿司の料理教室を運営していた結果、教室のホームページのSEO上の価値が上がっていたことが、お話ししてわかりました。
––––そこから個別相談に移って、さらに事業を磨くわけですね。
はい、ワークショップは本当に“さわり”なので、全4回の個別相談を通して各参加者の事業を深掘りし、より魅力的に見せる工夫を施していきました。
個別相談の初回は、まず「アイデアの先鋭化」から始めます。皆さんそれぞれ今の事業に思いはありますが、今回は最終的に8分間のプレゼンに収めなければいけないため、事業をいかに魅力的で、かつ分かりやすくまとめられるか、に頭をひねりました。
例えば、「日本初、高性能ベビー向け製品を発表!」の石井さんにはBtoBの路線からBtoCへの転換をご提案したり、チョークアートの坂本さんにはサブスク型モデルのアイデアをお出ししたりしました。個別相談は1回1時間しかないため、初回は千葉日報デジタルの経験とノウハウをフル活用し、先鋭化できそうなアイデアをまとめあげました。
2回目以降は、初回でまとめたアイデアをもとに、事業を具体化しつつ、プレゼンを見越して「どう見せるか」も検討していきました。皆さんスライドを使ってプレゼンするため、個別相談の中で写真の取捨選択や原稿のストーリーなどのブラッシュアップも行いました。
そして、最後のステップがプレゼン対応レッスンです。当初よりビジネスオーディションでは、会場に50名ほどの来賓を呼ぼうと市原商工会議所側と合意していました。それも一般のお客さんではなく、金融機関関係者、地元でご商売されている方、創業者の先輩など、BtoBになる方たちです。そこで「見せる」という意味では、こういった方々に刺さって、自分たちの商売を次につなげていけるような内容にすることを一番に心がけました。
例えば「木こり花澤 山を守る地域密着型SDGsビジネス」の花澤さんは、当日の仕掛けとして、普段の作業服姿でチェーンソーを持って登場する演出を施しました。まず見た目のインパクトで「木こり」というプレゼン内容に興味を持ってもらう狙いです。
また、「人事の力で業績アップ」の村山さんは、自身がエネルギッシュで内容が盛りだくさん過ぎたため、もう少し要約して核を決めましょうとアドバイスさせていただきました。
事業の芯を深掘りすることは大事ですが、それをどう伝えるか、どう見せて心を掴むかまで含めて、私たちで色々とアドバイスさせていただいたのが、個別相談とプレゼンレッスンです。
今回のビジネスオーディションは、経営計画や売り上げ目標を計画書的に具体化することよりも、プレゼンとして面白いかどうかが重視されたイベントです。事業の深掘りやプレゼンのレッスンは、当然そのゴールを意識してつくり込むことになります。
広報的な視点から、イベントに「一体感」を仕掛ける
––––オーディションの参加者は、マーケティングの総合的な視点が養われそうですね。
今回のイベントの裏のテーマは、広報宣伝の考え方や骨格を知って、体得していただくことにあります。3つのステップも、今回に限ればビジネスオーディションという場に向けて、自分達の事業をブラッシュアップする作業ですが、実は、やっていることは広報宣伝を組み立てるプロセスと全く同じ構造です。
イベントのゴールに向けた作業を違う形で横展開すれば、すぐにプロモーションスキルとして活かせる仕掛けが、各ステップには施されています。参加した方々は、この先、新規開拓しようとすれば、いつか「自分の強み、使用する媒体、伝え方」といったマーケティングの課題に直面するはずです。その時に今回の経験が必ず活きてくると考えています。
––––うちわを使った採点方法が面白かったです。
今回のビジネスオーディションは、うちわの裏表で「興味があります」と「もっと聴かせて」という2パターンを出せるようにしており、いわゆる“審査会”ではありません。これは商工会議所側との序盤の打ち合わせで、「参加しやすいフランクな雰囲気」を作るにはどうしたらいいかと考えた結果です。
こうしたオーディションには大体、審査員がいて、お客さんは蚊帳の外になりがちですが、今回はそうではなく、皆で彼らを応援する空気感を醸成したい思いがありました。
加えて、私たちの最大の強みである、「広報の視点から事業やイベントを組み立てる」視点も反映されています。イベントであればメディアに掲載された際に写真映えして、いかに「面白そうなイベントだな」と思ってもらえるかが肝です。そこから逆算して、会場に一体感を生んで、華やかさも演出できるツールとして、うちわの採用となりました。
地域の商工会議所との連携で、周囲を巻き込むイベントを育てる
––––初のイベントで、商工会議所との連携面はいかがでしたか?
当日はかなり大規模にやらせていただき、市原商工会議所の皆さんの準備には頭が下がる思いです。これ以外にも、参加者のパワーポイントの細かい設定や原稿修正の実務作業など、基礎的なバックアップを確実にしていただきました。
そのおかげで私たちは、参加者とのディスカッションやアドバイスに集中できました。市原商工会議所の皆さんは事務的部分、私たちは事業の深掘りと、うまく役割分担できたことで、お互いの強みが発揮できたと感じています。
––––周囲からの反響はいかがでしょうか?
来賓の皆さんからは、とてもいい発表だったとお褒めの言葉をいただきました。千葉日報デジタルとしてもこうした試みは今回が初ですが、期待以上の手応えです。
加えて、会場に設けた発表者用のブースも大好評でした。ブースにはプレゼン終了後から結果発表までの合間の30分程度に巡ってもらう想定でしたが、太巻き寿司を試食したり、チョークアートの作品に触れたりと、みなさんが積極的に立ち寄ってくださいました。
参加者のみなさんには、あらかじめブースにお客さんが来た際に、何かお渡しできる資料を必ず用意してくださいとアドバイスをしていました。単なる事業のお披露目の場ではなく、そこでお客さんを獲得するくらいのつもりで臨むための仕掛けです。
結果的には、当初もくろんでいたコミュニティのようなものが生まれて、地域の事業者の方が発表者である創業者を遠くから見守るのではなく、近しい関係を持てる場が作れました。
––––最後に、イベントを終えた率直な感想と今後の目標を教えてください。
私たちの仕事は本番前の最終リハーサルまでで、本番になってしまえば、あとは発表者が頑張るしかありません。ですが、当日の会場に行って皆さんのプレゼンを見終えると、ほっとした気持ちと、しっかりと発表できた喜びで、泣きそうになるぐらいに感動的でした。
これはやはり、この3ヶ月間の密度の濃さの表れですし、何より登壇した6名の方が、本気で頑張ろうとやってくださったことへの感謝の思いでもあります。
私たちの強みは、プロモーションや広報において「どういう風に見せるか」という視点から、逆算して事業や商品・サービスを組み立てることです。今回のイベントもこの視点を持って臨んだことで、成功に導くことができました。
ビジネスオーディションの終了後、発表に参加した創業者の何名かはアフターフォローのサポートも始まっています。プレゼンで発表した内容をより具体化し、実際の収益につなげていく意欲があり、これからさらにサポートを強化していきたいと考えています。
今後も、今回の市原商工会議所さんとのご縁を大切に、引き続き市原市での支援事業に関わらせていただき、創業者や既存事業者の発展に貢献していきたいと思っています。